
京都市の市街地から車で30分ほどのところにある豊かな自然と特徴的な集落が集まった京北地域で農業を営んでいる安井千恵さんという方がいます。安井さんはさまざまな野菜を露地栽培やハウス栽培といった方法で育てており、一つ一つの野菜の特徴を活かし、より美味しく育てています。特に安井さんの育てるベビーリーフは人気で、取材の際もとても鮮やかで新鮮な色味を出していました。今回はそんな安井さんにインタビューしてきました。
ベビーリーフをメインで育てる理由とは
安井さんは新鮮なベビーリーフを中心に、ビーツや里芋、サツマイモなど多様な作物を育てています。数多くある種類の中で安井さんがベビーリーフを主力野菜に選んだ理由は、約4週間という短期間で収穫できる効率の良さと、その回転率の高さから一人でも育てやすい点にあります。ベビーリーフが成長して大きくなった場合でもフリルレタスとして活用できるため、廃棄せず無駄を出すことがありません。

安井さんの農業スタイルは、土に合う野菜を探るという実験的に取り組む姿勢が特徴です。また、これからの計画も常に考え、時期を変えて種まきや肥料を与えてみたりして、比較しやすい研究を行うことでより良い成果を目指しているそうです。なお、雨や泥の被害を受けないことから、野菜は露地よりもハウスで育てる方がメリットがあるとお聞きしました。
ベビーリーフのおすすめの食べ方
ひと工夫でベビーリーフがもっと美味しく感じられる、農家さんならではの食べ方のコツをいくつか聞いてみましたのでぜひ試してみてください。
- 生ハムに巻いて、白ワインと一緒に楽しむ
- ご飯の上にベビーリーフ、目玉焼きを乗せ、マヨ醤油をかけて食べる
- 恵方巻きの具として使ってみる

大変なこと、楽しいこと
農業をしていくなかで、どうすれば農業経営が良くなっていくのか試行錯誤は常につきものですが、安井さん自身それらを苦労と感じることはなかったそうです。「農業」という自分自身が本当にやりたいことをやっているから、それらも全て楽しむことができたのだそうです。反対に楽しいことを聞くと、自分の中で新しい知識や技術が身についていくことに喜びを感じるとお話しいただきました。


京北地域について

「私の周りの人や同じ農家の人、みんなが優しくてとても恵まれていましたね」と京北の人柄の良さ、環境の面についてもお話しいただきました。安井さんの他にも京北には新規就農者がおり、その方達ともネットワークがあるといいます。困ったことがあればすぐに相談できる、マイペース且つ周りにも頼りながら農業ができる、そんな場所です、とのこと。取材中にも、農家さんだけでなく民宿を営んでいる方の話題になったりと、コミュニティの温かさ、面白さを随所に感じました。
安井さんは京北の農家夫婦から農業研修を受けたこともあるそうです。何を作るか考えずに農業を始めようとしていたところ、作物を決めてからでないと経営的に厳しいことに気づき、その時にたまたま出会ったのがベビーリーフだったそうです。安井さんは農業の研修をしていた時期を振り返り、『2年間教えてもらっていました。午前は農業、午後は料理を一緒に教えてもらい、それがすごく楽しかった』と話されていました。『うちに農業体験しに来てください。一緒にご飯も作りましょう』と教わりながら、自身の平和学に通ずるものを感じていた、とのことです。
農業を始めたきっかけ
大学生の頃、安井さんはドイツの施設で、住み込みのボランティア活動をしていたそうです。その施設でアフガニスタンの農村出身の子どもたちと交流し、長引く内戦により農村が脆弱化し、深刻な食糧不足という実態を知ることで「本当の豊かさとは何か」について考えるようになったといいます。また帰国後、日本で東日本大震災が発生し土壌汚染が問題となったことで、より「健康で豊かな土壌」について考えるようになったそうです。2つのきっかけが重なったことで思いがより一層強くなり、結果的に農業を始めることになりました。豊かさの中に食べるという行為があり、食べていくことの重要性についても話されていました。安井さんは『農業は目に見える形で豊かさがわかる。何かを否定したくて農業をしているのではなく、目の前にある野菜と向き合うことで、自分が幸せになれる』と語っていただきました。

安井さんが思う農業をする意味
安井さんの中では平和学がずっとテーマであり、農業を続けることで自分の中の平和学を維持することにつながっていると話されていました。『自分が見て感じているものに対して、もっとこうなったらいいなと思うことで、自分の中の認識世界がより良くなる。そこに向かって、もっと農業や家族、地域など豊かに暮らせるように日々鍛錬というか実践をしています。ベビーリーフを喜んでもらって、もっといい品質のものを作ろうとか』と安井さんの農業や今後のビジョンすべては、平和学というテーマが軸になっています。
私たちに伝えたいこと
安井さんは京都市内の若手農家らで構成されたDACS(ダックス)というグループのメンバーでもあり、マルシェを開催したりトークイベントを開いたりもされています。

そんな話の中で『ちょっとでも自分で何かを生み出すことが大事。それが何か作物を作るということだけでなく、なんでもいいからとりあえず自分で創造してみることが大事』『何か1つを職人のように極めなくても、自分の中で柱が3つくらいあってもいい』と話してくれました。安井さんが私たち若者に伝えたいことは、『農家のような大きな畑ではなく小さなプランターでの野菜作りで構わない、まずはとにかく自分で何かを作ってみる』ということの大切さです。自分の手でイチから育てたものを口にすることで食べる喜びが生まれ、食事がもっと楽しくなるからと話してくれました。 安井さんの中で「とにかくやってみる」ということを大事にしていることが伝わりました。今後いろんなことに挑戦したいと語った安井さんでしたが、今は畑の仕事が忙しく自分の中で畑のルーティーンを丁寧にこなしていくことが目の前の目標だそうです。
